生命を棄てる

立派な雄猪を獲りました。80kgの大物。止め刺しの為に放血しようにも硬い鎧の皮で手こずる。絶命を確認し車の荷台に乗せるのも、自宅の解体場所に下ろし吊り上げるのも挫けそうになる。しかしそんな悠長にしていられない。早急に内臓摘出を行い10℃の曇空下で汗だくになる。悪戦苦闘の末、無事に最初の処理を終えて神々しく力強いその彫刻の様な肉塊を改めてよく見ると背中から腰にかけて体毛が禿げ白くカビている。冬から初春に出やすくなるマダニによる皮膚病だ。吊るす前に熱湯洗浄している時には焦っていたので見逃していた。トドメを指してからの作業は苦戦したがよく出来た分残念だ。が、必至に生き抜いて来た孤高の獣の生命をいただく事、しっかりと咀嚼して噛み締める事、ありがとうとごちそうさまが言えない事が何よりも悲しい。一匹を仕留める迄には暗い森の中で痕跡を探し出し、踏み込むであろう前足の位置を広大な山の中からたった12cm幅の罠を仕掛け待つ。バレて掘り起こされたり数センチ横を何度も歩かれながらも毎日見回り位置を変えたり枝や石で障害物を造ったり試行錯誤してやっと捕えた獲物。掛かった獣と対峙して鬼の形相で向かってくる猪と向き合い闘う。そんな生命を廃棄しなくてはならない現実。それでもまた山に入ります。